ローソン

2012/11/14

ろう者の識字率を上げるために、あなたに出来ること



世界中のろう者の識字率は健聴者よりも、ずっと低いことをあなたは知っていましたか?特に発展が遅く、ろう教育がまだ不十分な国、タイのろう者の識字率はわずか20%なのです。 

今回は様々なろう者の中で、『読み書きが苦手なろう者』という存在にスポットライトを当てたいと思います。

日本にも、読み書きがちょっと苦手なろう者は少なくとも、います。「喋れなくても、ちゃんとした文章は書けるでしょ」と思いこんでいる方々がいますが、少し誤解されています。軽度聴覚障害者や中途聴覚障害者は問題ありませんが、読み書きがちょっと苦手なため、希望の職につけられず、生活保護を受けたり、手先を使う仕事や肉体労働をやったり、そして、悲しいことに犯罪に染まってしまっているろう者もいます。 

少し長くなりますが、ろう者の識字率が低い理由をわかりやすく説明します。

その理由は、ろう者が簡単に得られる情報量が健聴者たちよりも、ずっと少ないことです。前にも書きましたが、彼らには目から入る情報だけが頼りです。健聴者は無意識でも耳や目で莫大な情報量を自然に得ることは出来ますが、ろう者は自ら意識して、両目で常に情報を得ようと意識していないと、情報は自然に入ってこないのです。

テレビや邦画に字幕がついていなかった時代、ニュースやドラマなどに出ていた人たちが何を言っているのか、理解できないまま、まるで呪文みたいに喋り続けている彼らをただ観察していただけでした。口の動きに集中して見るだけでも疲れてしまい、彼らが話している内容を自分で作って想像してみたりすることもありました。こうして、少なすぎた情報量がろう者たちの低い識字率へ導いてしまった可能性もあります。

私は小学5年の時、オーストラリアで、とてつもない衝撃を受けました。実はオーストラリアのテレビは既に字幕(クローズ・キャプション - 表示・非表示を切り替えることができる字幕。必要があれば物音なども字幕として表示される)が普及していたのです。ドラマ、ニュース、CM、映画などで当たり前のように字幕が流れていました。固まった私は周りの友達に恐る恐ると聞いてみたら、かなり前からついていたとのことでした。アメリカのテレビも既に字幕がついていると知り、最初に思い浮かべたのは「なんで、日本は字幕がないの?」という疑問でした。

その頃の日本では、少なすぎる情報で、情報収集が困難だった聴覚障害者たちが集まり、聴覚障害者のための情報保障と字幕の普及を目指して、テレビや邦画にも字幕をすべてつけてほしいと訴える運動が始まりました。気が遠くなるような長年の運動がようやく認められ、現在はデジタルテレビの字幕(クローズドキャプション)が普及されるようになったことをきっかけに、字幕で見る機会が増えたろう者の識字率は伸びるようになってきました。

字幕は聴覚障害者の情報保障でもあり、どうしても欠かせないものです。

ドラマ『遅咲きのヒマワリ ~ボクの人生、リニューアル』で字幕OFFONを見てみましょう。

字幕OFF2人の会話しているシーンですが、セリフが見えないので理解できないです。


字幕ON2人のセリフが見えるので、会話の内容を理解できます。また、そこから正しい文法を自然に覚えられます。

字幕の普及は前より拡がっていますが、まだまだ完璧とは言えません。字幕というバリアフリーが増えるようにと活動している『メディア・アクセスサポート センター(MASC)』というNPO法人がいます。日本語字幕が付いている邦画のDVDもありますが、まだついてない邦画のDVDも多数あります。MASCはネットから字幕を読み込んで表示するDVDプレーヤー「おと見」を無料で提供してくれています。もちろん登録も無料です。また、観たいDVDがあれば、字幕の制作を依頼することも出来ます。

MASCは聴覚障害者用字幕制作者を養成するために、事務所での講座や出張講座なども行っています。総務省は2017年までにBSCS含む全ての放送に対し、字幕付け100%を目標にしていると発表されています。各放送局は字幕を増やし始めていて、既に制作者が不足している状況ですが、数年以内にもっと足りなくなる可能性はあるとMASCはそう考えています。

自分に出来るボランティア、プロの字幕制作者になりたい、字幕を作ってみたいなど、どんな理由でもOKです。字幕制作の講座はMASCの事務所で毎週水曜日に実施されていて、時々、土日にも行われています。興味がある方はぜひ、申し込んでみてはいかがでしょうか?

実は、私もハイスクールまで親に厳しいダメ出しを出されてしまうほど、日本語も英語も文法も全部、中途半端でした。

私の文章が上達するようになったのは、大学に入学したばかりの頃、ある恩師と出会ってからでした。オーストラリア人のちょっとぽっちゃりした可愛らしいおばさまでした。彼女は大学の職員で、さまざまな学生たちに論文の書き方や正しい文法などを教えるアドバイザーでもありました。私も文章が苦手だったということもあり、大学卒業までの約4年間、彼女の厳しい指導を受けてきました。ある日、いつものように図書館の個室で課題のレポートをチェックし終わった彼女にこう言われました。

「あなたの文章には人の心を掴める何かがあるわ。上手い下手は関係なく、他の人たちより何倍の努力を続けて、自信を持ち、自分の最大の武器にしなさい。」

その時は意味がよく分からなかったけれど、何をするべきか、自分なりに考えて、日本語の文法を学び直すために日本語コースに入ったり、日本から日本語の小説をたくさん取り寄せたり、図書館でさまざまな本を読み漁ったり、課題のプレゼンやサークルの交流などで健聴の学生たちと積極的に筆談、メール、チャットをやったり、字幕付きの映画も家族に「映画マニア」と呼ばれるくらい数え切れないほど観て、あらゆる言葉を吸収してきました。文章のボキャブラリーを増やすたびに、上達していく自分の文章に気付けるようになりました。つまり、見える言葉で正しい文法が自然に身に着いたのです。たくさん本を読んでいると、自分の書いた文章がおかしいことに気づくようになったというところが一番大きかったと思います。文章が上達した頃に、大学から、もっとも単位が高かった学生だけに与える賞『Award of Academic Excellence 』をいただくことが出来たのです。

社会人になってからも、ずっと地道に、文章のボキャブラリーを増やす努力を惜しみなく続けています。いつも手元には国語辞典、英語辞典、類語使い分け辞典が置いてあって、週末には必ず本屋めぐりをしています。本屋は見える言葉が一番あふれている場所で、お気に入りでもあります。ただ立ち読みをするのではなくて、長い棚にたくさん並ぶ数々の本のタイトルを見ながら歩きまわるようにしています。その中から自分がいちばん惹かれる言葉を見つけ出し、自分の記憶に刻み込んだり、余裕あれば買ったりしています。最近は『犬から見た世界(その目で耳で鼻で感じていること) 』を買いました。

そして、DEAF PEOPLEを立ち上げたことがきっかけで、初めてライティングという新しい仕事の依頼をいただくという奇跡のような出来事も実際にありました。文章を書くことが好きなので、そういうチャンスに巡り合えたこと、ライティングという仕事で健聴者と対等になれるチャンスを掴めたことに対して、素直に喜びを感じています。今もメールの交流が続いている大学時代の恩師に報告したところ、大変、喜んでくださいました。彼女のあの言葉こそが、文章に対する私の意識を変えさせ、大きな影響を与えたことは間違いないのでしょう。

健聴の方は、ぜひテレビの音を消したまま、又は、両耳にヘッドホンを付けたまま、字幕機能のOFFONで見てみてください。ろう者がどれだけテレビから情報を得られているのか、多少、理解できると思います。

文章は苦手だけれども、ちょっとでも上達したいなと思っているろうの方は、まず簡単な方法から始めてみましょう。今日からでも十分に間に合います。 

絵本を読む。
簡単なものでもOKですので、絵本を読んでみましょう。最近は大人向けの優しい絵本も出版されています。たとえば、作者パット・パルマーの『楽しもう』や『泣こう』がオススメです。文章が美しく、短く、とても読みやすいです。また、図書館に行くのも良いと思います。

SNSやメールで健聴の人たちと積極的にコミュニケーションを取る。
健聴者の情報量はろう者よりはるかに上なので、健聴の人たちと積極的にコミュニケーションを取ることで自分の情報量を増やしましょう。

わからない言葉は積極的にネットで調べてみる。
見たこともない言葉や難しい言葉の意味は携帯電話やスマートフォンのネット経由で調べましょう。自分で調べることも大切なステップです。

日記やブログで文章を書いてみる
下手でもOKですので、まずは簡単で短い文章を毎日、書いてみましょう。たとえば、今日はどんなものを食べましたとか、お休みの日はショッピングへ行ってきましたとか、日常で過ごしたこと簡単に書いてみてください。ブログを頑張って書き続けているろう者たちもいます。手話キャスターの岡本かおりさんやデフリンピック(聴覚障害者のためのオリンピック)のハンマー投げ選手の金メダリストである森本真敏くんもブログをやっています。

時間かかっても、いいのです。焦らないこと、諦めないこと、自分のペースでゆっくり進んでください。やがて、必ず、大きなプラスになるのでしょう。

ぜひ、一緒にがんばりましょう。