ローソン

2012/10/01

聴覚障害者は補聴器をつけていても、言葉がわかるとは限らないです。


「補聴器をつけると、言葉がわかるの?」

健聴の友達によく聞かれます。

正直、とっても、ビミョーなところです。完璧に言葉がわかるとは言えません。聴覚障害者たちは相手の口の動きをよく見ていない限り、音は聞こえていても、何の音なのか、何を言っているのか、完璧にわかることは、難しいです。話の内容は、わからないけれど、話しかけられていることは、わかるという感じです。補聴器は言葉を完璧に聞き取るためではなく、あらゆる「音」を教えてくれる存在なのです。聴覚障害者たちは耳ではなく、目から入ってくる情報で言葉を覚え、理解して いくように出来ているため、補聴器をつけていても、【言葉を聞き取る/聞き分ける】という事は長年のトレーニングを根気よく受けていないと、大変、難しいです。何のために補聴器をつけているのかというと、車のクラクションが聞こえるようにと、身を守るためにつける人もいますし、様々な理由があると思いますが、私の場合、単純に、【世界の音】に触れていたいからです。たとえば、家族の声、友達の声、赤ちゃ んの声、テレビの音、紙を破る音、ハサミで切る音、掃除機をかける音、洗濯機の音、海の音、雨の音、雷の音、動物の鳴き声、車の音、サイレンの音、エアコンの音、包丁でキャベツを切る音、楽器の音など、日常のすべての音を補聴器が教えてくれるのです。幼い時から、家族に「あれは何の音?こっちは何の音?あ の音はどんな感じで鳴っているの?」と、よく聞いていました。毎日、あらゆる音の楽しさを通して、好きな音も苦手な音も見つけられました。今でも、新しい音が気になります。もし、補聴器が発明されていなかったら、私は一生、【音】という存在を知り得ることは絶対に、なかったと言えます。

聴覚障害者の【聞こえ】はどんな風に言葉を聞いていますか?

健聴者と聴覚障害者の【聞こえ】を可視化させて、4つの図で、わかりやすく説明します。

手話キャスター、佐々木あやみさんのブログに載っている図を参考にしながら、同じように図を作成してみました。あくまで、イメージです。

  •  健聴者の聞こえかた。普通に聞こえる状態。

  • 伝音性難聴の聞こえかた。 音(言葉)が蛾のように小さく、聞き取りづらくなる状態。

  • 感音性難聴の聞こえかた。 人によっては違いますが、音(言葉)がアリのように小さく、呪文みたいに歪んだままで意味不明な状態。

  • 感音性難聴で補聴器をつけたときの聞こえかた。 音(言葉)は飛行機のように大きくなるだけで、呪文みたいに歪んだままで意味不明な状態。また不要な雑音も拾ってしまうので、ミックスされて、ハッキリと聞き取る/聞き分けるのは大変、難しいです。ある程度のトレーニングを受けた人は【発音の明確さ】で、聞き取れる場合もあります。

 
補聴器は、英語でHearing Aidといいます。

昔の補聴器はベージュ色のみで、お世辞でも、オシャレとは、なかなか言えないようなモノでした。多くの聴覚障害者たちは抵抗感があり、髪で隠すこともありました。

今、補聴器は時代と共に大きく進化し続けています。

一 人一人の聞こえる音域の音を大きくできる、性能の良いものも開発されてきました。同時に、デジタル化により、何種類かのプログラムを持ち、聞く環境によって、自動的に選択できて、より自然の耳に近い機能を持つ補聴器も、生まれてきました。自分に合う補聴器を選んで、補聴器の専門店で正確にフィッティングを してもらい、聞く練習をして、補聴器に慣れていきます。

近年、聴覚障害者たちはファッション性を重視するようになりました。2003年、世界初の、ワイデックスというデンマークの世界的な補聴器メーカーとファッションブランドのUnited Colors of Benettonがコラボした画期的な補聴器【Bravo】が誕生しました。雑誌のファッション広告にも登場し、【カッコよく / 可愛く見せる補聴器】に大進歩するようになったのです。補聴器がファッションの1つとして、ファッション広告に出てくるようになったことに感動したのを今でも鮮明に覚えています。カラーバリエーションも種類も増えつづけ、多くの方々の【ネガティブなイメージ】から【ポジディブなイメージ】に大きく変わるきっかけにもなったのです。

最近は、防水補聴器や、無線の伝達手段としてのBluetooth機能もあります。補聴器に対応するイヤフォンM-リンク】も生まれ、音楽大好きな聴覚障害者たちに重宝がられています。カラーは白と黒のみなので、いろんなファッションに合うように、より楽しめるように、カラーバリエーションがもっと、あってもいいなと思います。

補聴器は【音】を大きくするものです。

聞こえない耳のボリュームを上げてくれるようなものです。

補聴器をつけているから、言葉がわかると、思わないほうがベストです。

補聴器の歴史に関する、とても興味深い資料を見つけました。補聴器は電話機のヒントから生まれていたこと、電話機を発明したアレクサンダー・グラハム・ベル博士(ベル研究所)の妻は耳が聞こえない人だったこと、昔の補聴器はトランペット型やラッパ型だったこと、補聴器の専門家と聴覚障害者が対立したエピソードなども、いろいろ書かれてあります。読む価値はありますので、ぜひ、皆さまに読んでいただければと思います。

「補聴器の歴史から見えてくること」 著者: 瀬野豪志(東京大学先端科学技術研究センター協力研究員)